猫である。
私は猫を拾ったのである。
もう随分昔である。
子猫であった。
おそらく生まれて1週間もたっていないであろう。
当時、私が住んでいた安アパート(通称。たおれ荘)の周りには野良猫がうろうろしていてきっとそのなかの母猫が産んだのであろう。
猫は子供を数匹産む。
私が拾った猫はおそらく母親から見捨てられたのであろう。
私は手のひらに乗る小さな猫をひろい途方に暮れたのである。
「どうしたらいいもんだ。」
私が住んでいた安アパートはペット禁止であった。
そのままそこに置いて立ち去ればいいのであるが、なぜか私は子猫を持ち帰ったのである。
私にとってはごくごく自然なことであった。
子猫は哺乳瓶のミルクをごくごく飲み、大きくなった。
猫の名前は、「ちびこ」になった。
母親が名付けたのである。
やがて大きくなった、「ちびこ」は私の引っ越しについて来た。
いつも一緒だった。
「ちびこ」は私が寝るとき、一緒に寝なかった。
無理やり布団に入れると暴れて逃走した。
しかし、私が寝入りそうになると、枕元に置いてあるカゴにそーっと入って寝たのである。
「ちびこ」との生活は18年続いた。
「ちびこ」は私が仕事から帰ってきても寝ていた。
「おかえり。」はなかった。
ただ、寝ていた。
私はそれがごく自然だと思っていた。
仕事から帰ると風呂に入った。
湯船につかり夕刊を読んだ。
読み終わると、浴室のドアをあけ、「ちびこー!」と猫を呼んだ。
すると、「ちびこ」がおっとり刀で浴室に歩いてきた。
私は浴槽の折りたたみの蓋を半分にし、「ちびこ」を載せた。
「ちびこ」はぬくぬくの蓋の上で気持ちがいいのか目をつぶった。
私は、身体を洗い、頭を洗い、再び浴槽に入った。
すると「ちびこ」は「待ってました。」とばかり起き上がり顎を突き出すのであった。
私は「ちびこ」の喉を撫でるのである。
「ちびこ」は目を細め、ごろごろ喉を鳴らすのである。
これが、私と「ちびこ」の毎晩のしきたりだったのである。
「どうかね。フィーユ君。」
サリー先生が出来たばかりの原稿をわたし訊ねた。
「先生。いいではないですか。」
「私と猫とのなんでもない日常を描いたほのぼのとしたお話です。」
「そうであろう。」
「そうであろう。」
「それで、先生。続きは?」
「うん?」
「続きです。」
「あるよ。」
「もう感動の続き。」
「もう涙なくして読めんぞ。」
サリー先生は自信満々に原稿用紙を差し出した。
私は期待に胸を踊らせて読み始めた。
「私は、犬をもらった。」
もらったのである。
来てしまったのである。
別に欲しかったわけではない。
欲しかったわけではないが、来てしまったのである。
来てしまったものは仕方がない。
子犬ではなかった。
年齢不詳であった。
子犬であれば哺乳瓶でミルクを飲ませて育てようと思ったのであるが、その犬は哺乳瓶より「おやつ」のほうがいいようであった。
子犬ではなかったが、年齢不詳の犬は翌朝からもうここが我が家だと生まれてから住んでいる家だとばかり我がもの顔で嬉しいそうにうろうろしたのである。
猫の「ちびこ」は母親に捨てられたのだが、年齢不詳の犬も捨てられたのである。
なぜ、私のところには捨てられた猫、犬が寄ってくるのであろう。
猫の「ちびこ」は一緒に寝なかったが、年齢不詳の犬は一緒に寝た。
寝たがった。
私は一緒に寝たくなかったのだが、年齢不詳の犬がどうしてもというので仕方がなかったのである。
そういえば、年齢不詳の犬ははじめ一緒に寝なかった。
私がベッドで寝ていると、床で寝ている年齢不詳の犬がいびきをかいていた。
私は、爆弾が落ちたかと思って飛び起きた。
年齢不詳の犬のいびきだった。
そしていつの間に年齢不詳の犬は私と一緒に寝るようになったのである。
「先生。」
「なんだね。」
「あのう。急にお話の流れが。。。」
「流れがどうしたのだ?」
「いえ。始まりはよかったんです。」
「よかったんです。」
「おじさんと子猫の物語です。」
「ほのぼのです。」
「ところが急に年齢不詳の犬の話になり。」
「やかんか?」
「いかんかです。」
「トランプの娘か?」
「イバンカです。」
「先生。もうこのボケるのやめませんか?」
「フィーユ君。続きを読みなさい。」
渋々、私は続きを読み始めた。
年齢不詳の犬であるが、私が風呂に入っている間、風呂場の外で私が出るのを待っていた。
そして私が出ると私の足をペロペロ舐めたのである。
気持ち悪い。
で、この年齢不詳の犬であるが、私がベッドに行くと。
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「可愛いだろう?」
「そして。」
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「寝ているところをいたずらするの。」
「先生。これはただの自慢ではありませんか!」
「いけませんか?」
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つづく!
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